行動データは持ち出せるか — ヒートマップ&A/Bテスト19製品のエクスポート/API解放度比較

ヒートマップエックス エンジニアチーム20分で読了
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この記事の要約

  • ヒートマップ/A/Bテストの主要19製品を「データを外に出せるか(ポータビリティ)」で横断比較
  • ヒートマップ系は二極化:無料帯(Clarity等)はAPIが集計値のみで浅く、深い生データはエンタープライズ限定
  • 生データまで開いているのは開発者向けOSS(PostHog・Matomo・GrowthBook・Statsig)
  • 無料のMicrosoft ClarityはエクスポートAPIも無料だが「10リクエスト/日・直近3日・集計値のみ」の厳しい制限
  • 価格・仕様は2026年7月時点の各社公開ドキュメントに基づく(記事末尾に出典)

ツール選びは機能や価格で比べられがちですが、見落とされやすいのが「そのツールに貯まった行動データを、必要なときに自分たちの手元へ取り出せるか」という点です。本記事では、ヒートマップ&A/Bテストツール「HeatMapX」のエンジニアチームが、各社の公開ドキュメントを一次情報として調査し、エクスポート/API解放の実態を整理しました。中立性のため、自社製品は比較表に含めていません。

なぜ「データの持ち出しやすさ」を見るのか

データの持ち出しやすさが効いてくる場面は主に4つです。

  1. ツール移行 — 別サービスへ乗り換えるとき、過去データを持っていけるか
  2. 自動化 — 毎日の集計やレポートをAPIで回せるか
  3. 長期分析 — ツール側の保持期間を超えて、自社に履歴を蓄積できるか
  4. 社内BI連携 — Snowflakeやスプレッドシートに流し込めるか

この記事では各ツールの解放度を3段階で表します。フルオープン=生データまで無料/低額で外に出せる、部分開放=APIはあるが壁の内側 or 取得データが浅い、実質クローズド=生エクスポートAPIが無い/届かない、です。

注目例:無料の Microsoft Clarity は、APIでどこまで取り出せるか

無料ツールの代表格である Microsoft Clarity を例に、エクスポートAPIの実態を具体的に見ておきます。結論は「エクスポートも完全無料。ただし無料だが浅い」。壁は価格ではなく、取得できるデータの薄さとレート制限にあります。

項目 内容
課金 無料(全機能 $0・API も無償。技術上の上限として1プロジェクト10万セッション/日はあるが課金化されない)
取得データ ダッシュボードの集計指標+ディメンション分解のみ(Scroll Depth / Engagement Time / Traffic 等)。録画・ヒートマップ画像・座標データは取得不可
レート制限 1プロジェクトあたり 10リクエスト/日
期間 / 行数 1リクエストにつき直近1〜3日分最大1,000行・最大3ディメンション(ページング不可)
保持期間 録画は30日、集計(ヒートマップ/クリック)データは9か月保持。ただしAPIは直近3日しか遡れないため、長期履歴を作るには毎日自分で取得・保存する必要がある
認証 プロジェクト管理者が Settings → Data Export で発行する JWT / Bearer トークン
補足 公式の MCPサーバー@microsoft/clarity-mcp-server)も無償提供。Claude / Cursor から自然言語でクエリ可能(ただし上記の制限は同じ)。公式ロードマップでは API 上限引き上げ・予測ヒートマップにも言及

「無料で手軽に基本分析」には十分ですが、「長期履歴を自動で貯める」用途には向かない、と割り切るのが現実的です。

比較表:ヒートマップ/セッション録画系

「有料の壁」=データエクスポート相当の機能を使うのに上位/エンタープライズ契約が要るか、を表します。

ツール エクスポートで出せるもの(公開API) 有料の壁 解放度
Microsoft Clarity Data Export API+MCPで集計指標・ディメンション分解のみ(録画/座標は不可) なし(全機能無料) 部分開放
Hotjar(Contentsquare傘下) APIはアンケート回答・ユーザー照会/削除のみ。録画/ヒートマップはUIからCSV/XLSX/JPG(動画は不可) あり(Observe/AskのScaleティア) 実質クローズド
Contentsquare Export/Metrics APIで生データ(pageview/session)+集計。Snowflake/BigQuery等へ連携 あり(CSM経由・エンタープライズ) 部分開放
FullStory Server APIでセッションイベントの生データ(gzip JSON) あり(Enterprise/Advancedアドオン) 部分開放
Mouseflow REST+JS APIで録画・pageview・ヒートマップ・ファネル・フォーム(書出形式は要確認) あり(REST APIはPremium/Enterprise) 部分開放
Smartlook(Cisco傘下・2027終了予定) RESTでVisitors/Events/Funnels/Sessions(ヒートマップ/ダッシュボードはAPI対象外) 一部(要確認) 部分開放
Crazy Egg 公開APIはゴール送信のみ。ヒートマップ/録画のJSON書出は上位プラン、BI連携は限定的 あり(Pro/Enterprise) 実質クローズド
Lucky Orange データを取り出す公開APIは確認できず(送信用APIのみ・UIのCSVは最大1万行) 要確認 実質クローズド
PostHog(OSS) REST+SQL(HogQL)で録画スナップショット・ヒートマップ生データ(座標/画像は非対応)・イベント・warehouse連携 なし(無料枠でAPI可) フルオープン
Matomo(OSS/self-host) Reporting APIで全レポートをxml/csv/json/Excel、生データはAPI/DB直参照(ヒートマップ/録画は有料plugin) なし(セルフホストで完全所有) フルオープン

比較表:A/Bテスト系

実験結果データの取り出しやすさで評価します。OSS/warehouse-native 勢が「データ所有」を軸に開放し、商用勢はエンタープライズ契約に紐づく傾向があります。

ツール エクスポートで出せるもの(公開API) 有料の壁 解放度
GrowthBook(OSS/warehouse-native) REST+SDK+MCPで実験・メトリクス・フラグ全構成。結果をnotebook/CSV書出、データは自社warehouseに残る なし(セルフホスト無料) フルオープン
Statsig(OpenAI→Amplitude継承) フルAPI(cloud+warehouse-native)で実験・イベント・監査ログ、GA4等へ転送 なし(従量・無料枠が広い) フルオープン
Convert.com REST API v2(HMAC)でプロジェクト・ゴール・レポートを完全管理 一部(Growth $299/Pro $420月・100K MTU年払い) 部分開放
Optimizely 広範なRESTで実験構成・結果。エンタープライズ連携が充実 あり(エンタープライズ価格・非公開) 部分開放
VWO(AB Tastyと合併・2026/1) Data APIでアカウント・キャンペーン・ゴール+レポート+セグメント。warehouse書出はEnterprise限定 あり(MTU課金・要問合せ) 部分開放
AB Tasty(VWOと合併) 合併後も旧基盤のREST APIが継続。統合後のエクスポート仕様は未発表 あり(要問合せ) 部分開放
Kameleoon REST API+20+分析連携で実験・セグメント(サーバー/クライアント両対応) あり(要問合せ) 部分開放
Omniconvert APIありだが生データ書出の公開仕様は限定的(webhook中心)。現在「Nexus」AI基盤へ再編中 要確認 部分開放
Unbounce 連携API中心。LP/リード連携が主で実験データの生エクスポートは弱い 一部 実質クローズド

データ解放度スコア(3段階)

フルオープン(4製品)— 生データまで無料/低額で外に出せる

  • PostHog — 録画スナップショットもヒートマップ生データもAPIで取得、SQL全開放、無料枠でAPI可。OSS(MITコア)。
  • Matomo — 全レポートを任意形式で、生データはAPI/DB直参照。セルフホストで完全所有。
  • GrowthBook — 結果をnotebook/CSV書出、データは自社warehouseに残る、セルフホスト無料。
  • Statsig — フルAPI+warehouse-native+広い無料枠。ただしOpenAI買収を経てAmplitudeが事業を継承しており、先行きは注視。

部分開放(11製品)— APIは実在するが「壁の内側」または取得データが浅い

  • Microsoft Clarity — 無料だが集計値のみ・10req/日・3日遡及の厳しい制限。生データは出ない。
  • Contentsquare — 生データExport APIは強力だがCSM経由のエンタープライズ前提。
  • FullStory — 生イベントExportはEnterprise/Advancedアドオン。
  • Mouseflow — API-first設計。ただしREST APIはPremium/Enterprise限定。
  • Smartlook — API対象はVisitors/Events/Funnels/Sessions。Cisco傘下・2027年サンセット予定。
  • Convert.com — HMAC署名のREST v2で実験を完全管理。中価格帯(Growth $299/Pro $420月)。
  • Optimizely — 広範なAPIだがエンタープライズ価格の壁。
  • VWO / AB Tasty — Data API+warehouse Export(Enterprise限定)。MTU課金・要問合せ。
  • Kameleoon — API+多数の分析連携。価格は要問合せ。
  • Omniconvert — APIはあるが生データ書出の公開仕様が薄い。Nexus再編中。

実質クローズド(4製品)— 行動データの生エクスポートAPIが無い/届かない

  • Hotjar — サーバーAPIはアンケート回答とGDPR照会のみ。しかもScaleティア限定。録画/ヒートマップの生データはAPIで出せない。
  • Crazy Egg — 公開APIはゴール送信のみ。生データのBI連携は限定的。
  • Lucky Orange — データを取り出す公開APIが確認できず(送信用の開発者APIのみ)。
  • Unbounce — LP/リード連携が主で実験データの生書出は弱い。

カテゴリ別サマリー

ヒートマップ系:二極化。無料=浅い、深い=エンタープライズ。 無料・低額帯(Clarity・Smartlook・Mouseflow)はAPIこそあるものの、Clarityは集計値のみ&低レート、他も生の座標/録画データは限定的です。深いエクスポート(Contentsquare・FullStory)は生データを出せますが、CSM経由のエンタープライズ契約が前提。Hotjarは Contentsquare 傘下で、行動データの生エクスポートAPIを持たず、API自体も上位ティア限定という構図です。生データまで開いているのは開発者向けOSSの PostHog と Matomo で、これらはマーケター向けCROツールというより「エンジニア基盤」に近い位置づけである点は理解しておくとよいでしょう。

A/Bテスト系:OSS・warehouse-native が「データ所有」で先行。 実験系は GrowthBook・Statsig が「データは自社のwarehouseに」を軸にフルAPIを開放し、商用勢(Optimizely・VWO/AB Tasty・Kameleoon)はエンタープライズ契約にAPIを紐づける傾向です。2026年1月には VWO と AB Tasty が Everstone Capital 主導で合併し、中〜大型の集約が進みました。中価格帯でAPIを開いている選択肢としては Convert が挙がります。

目的別・選び方の指針

「どれが一番か」ではなく、「自分たちの優先順位に合うのはどれか」で考えると選びやすくなります。

  • データ所有・完全な持ち出しを最優先するなら → OSS/warehouse-native 勢(PostHog・Matomo・GrowthBook・Statsig)。生データを自社側に残せる一方、セルフホストや技術リソースが前提になりやすい。
  • 無料で手軽に始めたいなら → Microsoft Clarity。導入コストゼロで基本分析は十分。ただしAPIは集計値のみ・10req/日・3日遡及なので、「長期履歴を自動で貯める」用途には向かないと割り切る。
  • エンタープライズで深い生データ連携が必要なら → Contentsquare・FullStory(ヒートマップ系)、VWO・Optimizely(実験系)。生データやwarehouse連携まで届くが、契約規模と価格の壁を前提に。
  • 自動化・AI/CLI連携を重視するなら → 公式MCP/APIの有無を確認する。Clarity・GrowthBookはMCPを提供済み。ただし取得できるデータの粒度(集計値か生データか)とレート制限まで含めて評価する。
  • 移行リスクを避けたいなら → 契約前に「解約時に何を、どの形式で持ち出せるか」を必ず確認する。エクスポートが上位プラン限定・UIのみ・非対応のツールは、乗り換え時にデータが取り残されやすい。

注意点・要確認リスト

価格・プラン名・API仕様は変動が速い領域です。採用判断の前に、以下は各社公式で最新を再確認することを推奨します。

  • Smartlook — Cisco傘下でEnd-of-Sale/End-of-Life(更新は2026/8末まで・サポート終了2027/8末・2027/9末に停止予定、Splunkへ統合)。新規採用は非推奨。
  • Mouseflow — ヒートマップAPIの応答形式(生座標か画像か)は公式ドキュメントで未確定。
  • Hotjar — Scaleティアの具体的な価格は Contentsquare 統合により公式ページで確認しづらいため、本記事では金額を断定していない。
  • AB Tasty — VWO合併後の統合API・エクスポート仕様は未発表。旧APIは当面稼働。
  • Convert.com — Growth $299/月・Pro $420/月(100K MTU・年払い)は公式pricing掲載値。MTU区分で変動。
  • VWO・Kameleoon・Optimizely・Contentsquare・FullStory — いずれも公開価格を出しておらず「要問合せ/エンタープライズ」。API利用可否と価格帯は営業経由で要確認。
  • Statsig — OpenAI買収後、事業をAmplitudeが継承。無料枠・API方針・データガバナンスが変わる可能性があり、長期採用前に規約確認。

データについて: スコアと「有料の壁」判定は各社公式ドキュメントを一次情報とした編集部の解釈です。数値・プラン名は2026年7月4日時点。仕様・価格は予告なく変更される可能性があるため、採用判断の前に各社の最新公式情報をご確認ください。なお、この「データの持ち出しやすさ」は、私たちHeatMapXが「計測タグ1本で集めた行動データを、CLI・MCP経由でいつでも手元に取り出せる」ことを大切にしている理由でもあります。

主な出典: Microsoft Learn(Clarity Data Export API / Data retention / MCP Server)/ Hotjar Help(API・エクスポート)/ Contentsquare Docs(Export・Metrics API・Connect)/ Fullstory Developer(Server API Exports)/ Mouseflow(REST API docs・pricing)/ Smartlook(API overview・EOL告知)/ PostHog Docs(API・Session recordings・Heatmaps・Query)/ Matomo(Reporting API・On-Premise・Heatmap plugin)/ GrowthBook(Docs・MCP・Pricing)/ Statsig(Docs・Pricing)・OpenAI/Amplitude(Statsig継承告知)/ Convert.com(Pricing・API)/ VWO Developers・AB Tasty(Data Export・合併告知)/ Crazy Egg・Lucky Orange・Kameleoon・Omniconvert・Unbounce 各社公式docs・pricing。

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